婦人科
[2022年2月改定]
福岡山王病院 産婦人科には、日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医が9名在籍しています。また、私たちが担当した腹腔鏡下手術の総症例数は、すでに16,907例を超えています。(前任地での実績を含む)
手術と実績について
以下に、これらの手術の詳細や実績について記します。
I. 低侵襲手術
高度な技術(内視鏡手術技術認定医が9名)と豊富な経験(16,907例以上の内視鏡手術を施行)に基づいて、安定した安全性の高い内視鏡手術を行うことができています。
低侵襲手術には、下記のようなたくさんの利点があり、多くの患者さんにたいへん喜ばれています。
- お腹に創が無い、または、創が非常に小さい
- 手術後の疼痛がかなり少なく回復が早い
- 入院期間が短い
- 社会復帰が早くできる など
A. 腹腔鏡下手術(卵巣のう腫、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮外妊娠、不妊症治療など)
特に不妊症に合併しているチョコレートのう胞に対しては、卵巣機能をなるべく温存維持することが重要です。チョコレートのう胞は摘出手術を受けなくても次第に残存卵巣機能(卵胞数)が低下してしまうために、管理(治療)方針に悩むことも少なくありません。その患者さんの年齢やそれまでの病歴(再発など)、本人の希望、MRI検査やAMHの値などの結果などを総合的に判断して、治療方針を決めることが重要です。当院ではほとんどの腹腔鏡術者が体外受精などの不妊症治療(ART、生殖補助医療技術)も手がけており、今後の妊娠成立においてなるべく良い状況をめざす手術を心がけています。
腹腔鏡下子宮筋腫核出術と子宮全摘術については、後述しています。
B. 腟式子宮全摘術(TVH)と腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術(LAVH)
子宮筋腫や子宮腺筋症などで生理の量が非常に多くなったり、貧血や生理痛などの症状が強くなったりして、日常生活に大きな影響がでるようになった場合には手術療法を考慮することになります。手術療法には子宮全体を摘出する方法(子宮全摘術)と子宮筋腫などの病変部分のみを摘出して子宮本体は残す方法(子宮筋腫核出術や子宮腺筋症縮小術)とがあります。子宮筋腫核出術については後述しています。
当院での手術法の決定に際しては、まず、担当医が医学的判断に基づいて、その患者さんに最もふさわしいと思われる治療法を提示しますが、最終的には患者さんの希望を十分に考慮して話し合いの上で決定することにしています。
一般に、子宮全摘術の場合には、ほとんどの病院の産婦人科ではお臍(へそ)のすぐ下から恥骨にかけての腹壁を12cm程度切開してから開腹し子宮の摘出術(腹式子宮全摘術・TAH)を行っていますが、福岡山王病院では、お腹を切らずに腟からの子宮摘出術(腟式子宮全摘術・TVHや腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術・LAVH)を数多く行っています。術後の痛みが少ないために、これらの手術を受けられた患者さんのほとんどが、手術翌日の午後には普通に歩くことができるほどです。
手術の安全性についても十分検討していますが、この二つの方法(TAHとTVH)には差が無いことが確認できています。ただし、すべての子宮筋腫の患者さんがこの手術法(TVH)を受けられるわけではありません。このような手術が可能な条件のいくつかを挙げますと、
(1)経腟分娩をしたことがある
(2)お腹の中の癒着がそれほど強くない
(3)子宮の大きさが推定で400g程度以下である
(4)『がん』などの悪性腫瘍が疑われていない
などです。
ただし、子宮を一時的にかなり小さくする治療薬(GnRH-a)があるために、未産婦であったり、より大きな子宮筋腫でも腟式手術(TVH)が可能な場合もあります。また、強い癒着が予想される場合(子宮内膜症の合併など)やより大きな子宮筋腫の場合でもLAVHを選択することにより、開腹手術(TAH)を受けなくてすむこともあります。最終的には、腟式手術や腹腔鏡下手術の経験豊富な医師の診察による判断が必要になります。
腹腔鏡下腟式子宮全摘術(LAVH)について
C. 子宮鏡下手術
粘膜下子宮筋腫(子宮の内腔に突出するように発育している筋腫のこと)や子宮内膜ポリープに対して行う手術法です。これらにより生理の量が増加したり生理痛がひどくなったり、不妊症の原因となったりします。経腟的に子宮内腔まで器具を挿入して手術を行うために、お腹に創を残すような手術法ではありませんが、子宮頚管(子宮の入り口)を拡げる前処置が必要です。
子宮の内腔に突出した粘膜下子宮筋腫(およそ50%以上の突出率)で直径が2-3cm程度までなら子宮鏡下子宮筋腫核出術を行うことができます。ただし、突出率が低い筋腫や3cmより大きな筋腫に対しては、下記のように安全性や確実性を考慮して最近は腹腔鏡下に子宮筋腫核出術を行うようになっています。
以前は、我々のグループでも突出率が低い粘膜下筋腫やより大きな粘膜下筋腫であっても子宮鏡下子宮筋腫摘出術を行っていましたが、最近は以下の2つの理由により、このような粘膜下筋腫は腹腔鏡下に筋腫を摘出するようになっています。まず第1の理由は、必ずしも子宮鏡下手術が「低侵襲」ではないことです。確かに、腹壁には創が付かないのですが、子宮内膜には大きな傷が付いたり、広い範囲の熱損傷を起こしてしまうことです。今後の妊娠を希望する女性にとっては、子宮内膜の損傷が不妊症の原因になったりして大きな問題になる可能性があります。一見、低侵襲で身体にやさしい手術のように見えても、真の意味で低侵襲であるとは限らないのです。
第2の理由は、最近の腹腔鏡下手術の技術向上、特に体内縫合操作の技術向上です。以前とは比べものにならないほど腹腔鏡下手術での体内縫合の技術が向上してきており、適切で確実な縫合が可能になってきました。手術時間も短くなり術中出血量も少なくなり、腹腔鏡下子宮筋腫摘出術の適応がかなり広くなってきました。
II. 筋腫に対する子宮温存手術(腹式・腹腔鏡下・子宮鏡下・腟式)
女性生殖器(子宮や卵巣など)の治療に際して特徴的なことは、同じ状態の病気であっても、その患者さんの置かれた状況(年齢・妊娠希望の有無など)によって治療法(管理法)が異なってくることです。
多くの場合で子宮筋腫は多発性であり再発しやすいために、今後の妊娠を全く希望しない患者さんや妊娠の可能性がほとんど無い年齢の患者さんの場合には、これまではほぼ全例で子宮全摘術が行われてきました。しかしながら最近は妊娠の希望や可能性の有無にかかわらず子宮の温存手術(筋腫のみの核出)を希望される患者さんが多くなってきています。
手術法の決定に際しては、医学的根拠に基づいて最もふさわしいと思われる治療法を提示していきますが、最終的には患者さんの希望を十分に考慮して治療法を決めるようにしています。将来の妊孕性(妊娠する能力)を維持する必要がある場合やその他の理由により子宮温存を希望する場合には、筋腫のみを摘出(核出)したり子宮腺筋症の部分を可能な限り摘出するようにして、子宮は温存する手術法を選択することになります。
巨大な子宮筋腫や数十個もの多数の筋腫のために他の病院で「子宮の温存は困難だ」とか「大きな頚部筋腫で手術は困難だ」などとコメントされた患者さんに対しても、ほぼ全ての症例において子宮筋腫のみの核出を行い子宮の温存手術ができています。この手術を確実に行えるようになるには、手際よく手術を行うことにより手術中の出血量を少なくして輸血の危険性を少なくしたり、術前に自己血を準備したり、術中に血液を回収し返血したり、術後の癒着を極力予防して将来の不妊の原因にならないような処置を講じたりするなどの、種々の準備や特殊な手術手技に習熟する必要があります。
手術法の選択においては、子宮筋腫が発生した部位や個数によって可能な手術法が限定されます。多くの方が腹腔鏡下手術を希望されて受診されますが、必ずしも全員がこの手術を受けることができるわけではありません。
筋腫の数があまり多くない場合は腹腔鏡下子宮筋腫核出術を行うことができます。また、子宮の内腔に突出した筋腫(およそ50%以上)の場合には、子宮鏡下子宮筋腫核出術を行うことができます。これらの二つの方法は、開腹手術に比較して患者さんの肉体的負担が非常に少なくなり、入院期間も短くなります。腹式子宮筋腫核出術は、ほとんどすべてのタイプの筋腫に対して行うことができる手術法です。それぞれの患者さんに最も適した手術法を選択することになります。当院の産婦人科医師がこれまでに行った子宮筋腫核出術は、合計で8,216例(前任地も含む)です。手術中の出血などのためにやむなく子宮全摘に至った症例は1例のみでした。
原則的に症状の原因と考えられる筋腫核を可及的に摘出する方針ですので、これまでで摘出筋腫数が最も多かった症例では108個でした。また、核出した一個の筋腫で最も大きかったものは4,050gでした。
開腹して行う子宮筋腫核出術では直径が3-4mm程度の非常に小さな筋腫も指で触知することができるためにほとんど取り残すことがなく、術後の子宮筋腫再発の予防に役立っています。一方、腹腔鏡下子宮筋腫核出術では手指で直接、触知できないために1cm程度以下の筋腫は認識することが困難で取り残すことが少なくなく、術後早期の筋腫再発の問題が学会でも報告されています。
また、多数の筋腫を腹腔鏡下に摘出する場合は、手術時間(麻酔時間)が長くなったり、手術中の出血量が増加して輸血の危険性が高くなったりします。これらの事実(手術リスクの増加や再発率の増加など)を踏まえて、当科では無理に腹腔鏡下手術に固執せずに、それぞれの患者さんに最もふさわしい手術法を選択して行っています。
子宮筋腫核出術は子宮が温存されるというメリットがある一方で、将来、子宮筋腫が再発して再度の手術を要する状態になる可能性もあります。また、この手術には手術後の子宮周囲の癒着を完全には予防できないといった注意点があります。これらの注意点を十分理解した上で手術法を選択することが重要です。